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横浜地方裁判所 平成5年(行ウ)18号 判決 1996年2月28日

原告

光正ビル株式会社 (X)

右代表者代表取締役

内藤義明

右訴訟代理人弁護士

大島正寿

高橋理一郎

湯沢誠

左部明宏

右高橋理一郎訴訟復代理人弁護士

横山裕之

澤田久代

被告

横浜市長 高秀秀信

右訴訟代理人弁護士

村瀬統一

栗田誠之

二川裕之

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告が平成四年九月九日付けでした、別紙物件目録一ないし三記載の土地に係る特別土地保有税を免除しない旨の処分を取り消す。

第二  事案の概要

一  本件は、土地の保有により地方税法(以下「法」という。)五八五条以下に定める特別土地保有税を課されることになった原告が、右保有税の申告期限である平成四年五月末日までに、当該土地上に二段式駐車装置を設置すれば、同法六〇三条の二の定めるところにより、右保有税の納税義務が免除になるという区役所の担当職員の指導を信じていたところ、突如、担当職員から、基準日である同年一月一日までにこれを設置しなければならない旨の指導変更を受けたため、急いでその着工を始めたが、右基準日までに完成が間に合わず、その結果、特別土地保有税免除の認定をしない旨の処分(以下「本件処分」という。)がされたとして、<1>原告は、被告のした従前の指導を信頼して行動したのであるから、被告が原告に対し、本件処分をすることは信義則の法理に違反する、<2>原告が設置した二段式駐車装置は右基準日に完成していなかったが、工事の進行状況からみて、当該土地は、恒久的な施設等の用に供されることが確実であったといえるから、右土地に係る右保有税は免除されるべきである、などと主張して、本件処分の取消しを求めたものである。

二  争いのない事実

1  本件土地の取得経緯及び本件処分の経緯

(一) 原告は、平成三年二月二五日、別紙物件目録一記載の土地を、また、同年六月二七日、同目録二及び三記載の土地を(以下、これらの土地を併せて、本件土地」という。)それぞれ取得した。

その結果、原告は、平成四年一月一日現在、横浜市港北区内に、合計一〇二七平方メートルの土地を保有するところとなり、昭和六一年以降に取得した土地の保有分の面積が一〇〇〇平方メートル以上となり、特別土地保有税の免税点(法五九五条)を超えるに至った。

(二) 原告は、同年六月一日、被告に対し、本件土地に係る特別土地保有税(保有分に係るもの)納付申請書を提出するとともに、右保有税納税義務免除認定申請書を提出した。

被告は、同年九月九日付けで、本件土地に係る右保有税の納税義務免除をしない旨の決定(本件処分)をし、同日、これを原告に通知した。

(三) 原告は、本件処分を不服として、同年一一月六日、被告に対し異議申立てを行ったが、被告は、平成五年二月三日付けで右異議申立てを棄却する旨の決定をし、同日、これを原告に通知した。

2  特別土地保有税の免除の要件

(一) 特別土地保有税は、土地の投機的取引を抑制して地価の安定を図るとともに、土地の供給促進を図ることを目的とし、土地の保有又はその取得に対し課されるものであり、当該土地のある市町村が課税主体となる(法五八五条)。

また、法は、工場施設、競技場施設等の敷地として恒久的に利用されている土地部分については、一定の要件の下に納税義務を免除することとしている。

すなわち、法六〇三条の二第一項二号は、市町村は、当該土地が、<1>工場施設、競技場施設その他の施設(建物、構築物その他の工作物及びこれらと一体的に利用されている土地により構成されているものに限る。以下「特定施設」という。)のうち、その整備状況、利用状況等が恒久的な利用に供される特定施設に係る基準として政令で定める基準に適合するものの用に供する土地で(以下、これを「恒久性の要件」という。)、かつ、<2>当該土地の利用が当該市町村に係る土地利用基本計画、都市計画その他の土地利用に関する計画に照らし、当該土地を含む周辺の地域における計画的な土地利用に適合するものであることについて市町村長が認定した場合(以下、これを「土地利用計画適合性の要件」という。)には、当該土地に係る特別土地保有税の納税義務を免除するものとしている。

(二) ところで、平成三年度の税制改正により、特別土地保有税の機能を高めるため、以下のとおり、三大都市圏の特定市の区域内に所在する土地に対して課する平成四年度から同一三年度までの各年度分の特別土地保有税について、免除制度の特例が設けられた。

(1) すなわち、法附則三一条の四の二第一項により、恒久性の要件について、三大都市圏の特定市の区域内に所在する土地に対して課する特別土地保有税(保有分)については、昭和六一年一月一日以降取得した土地で、駐車場、資材置場その他の土地自体の利用を主たる目的とする特定施設のうち建物又は構築物を伴わないものとして政令で定めるものの用に供する土地は免除制度の対象から除外された。

(2) そして、(1)の「政令で定めるもの」について、法施行令附則一六条の二の四は、右の駐車場、資材置場その他の土地自体の利用を主たる目的とする特定施設のうち建物又は構築物を伴わないものとして政令で定めるものは、当該特定施設のうち、次に掲げる建物又は構築物及びこれらと一体的に利用されている土地により構成されているもの以外のものをいう旨規定する。

<1> 建築基準法七条三項に規定する検査済証を交付された建物又は構築物

<2> 自動車車庫の用に供する構築物のうち、自治省令で定める特殊の装置を用いて設けられたもの

(3) また、右(2)<2>の自治省令で定める特殊の装置について、法施行規則附則八条の四は、自動車車庫の用に供する構築物のうち、駐車場法施行令一五条の規定による建設大臣の認定を受けたエレベータ・スライド方式、多段方式又は二段方式による駐車装置(以下「建設大臣認定の駐車装置」という。)とする旨規定する。

(三) なお、当該土地が、特別土地保有税の納税義務の免除の対象となるか否かは、申告納付すべき日の属する年の基準日の現況により、土地の保有に対して課する特別土地保有税の場合、その基準日は一月一日とされる(法六〇三条の二第七項、五八六条四項)。

3  本件土地と特別土地保有税免除の要件

本件土地は、前項(二)(1)の規定により免除制度の対象から除外されることになった。

そこで、原告は、同(2)<2>の自治省令で定める特殊の装置に当たる同(3)の建設大臣認定の駐車装置を本件土地上に設置することにより、特別土地保有税の納税義務の免除を受けようとした。

そして、本件土地が前項目(三)の特別土地保有税の納税義務の免除の対象となるか否かの基準日(以下「本件基準日」という。)は、平成四年一月一日である。

なお、本件土地は、(一)<2>の土地利用計画適合性の要件を満たしている。

三  争点に関する当事者の主張

1  信義則違反

(一) 原告の主張

(1) 原告と被告の交渉経過は以下のとおりである。

<1>原告は、平成三年五月一〇日ころ、横浜市港北区役所(区政部)固定資産税課土地係(以下「土地係」という。)から、「特別土地保有税改正のお知らせ」と題する書面を送付された。右書面には、免除の認定の基準日については何ら記載されておらず、「ご不明な点につきましては、次の特別土地保有税担当までお問い合わせ下さい。横浜市港北区役所固定資産税課土地係」という記載があった。

そこで、原告の谷煕常務(以下「谷」という。)と従業員小山眞繁(以下「小山」という。)は、同月一三日ころ、土地係を訪れ、担当の曽根光子職員(以下「曽根」という。)から「建設大臣認定の駐車装置が設置された駐車場が、申告時期の平成四年五月末日までに完成し、運営されていれば(本件土地に係る特別土地保有税の)納税義務は免除される。」旨の指導を受けた。

また、谷らは、「特別土地保有税が変わりました」と題する書面の交付を受けたが、右書面にも免除の認定の基準日については何ら記載されていなかった。

なお、原告側の相談は、この時も含め、これ以降も毎回、カウンター越しではなく、固定資産税課の中にある応接セットで行われた。

<2> 小山が、同年七月二六日、駐車装置の設置のレイアウト図面を持って土地係に赴くと、曽根及び楠田晃一(以下「楠田」という。)職員は、小山に対し、「駐車装置に加え、管理小屋もなければ免除にならない。」という誤った指導をした。

そこで、原告は、右指導を受け、右レイアウト図面に管理小屋を加えた図面を新たに作成し、小山は、同月三一日及び同年八月六日、一級建築士の資格を持つ原告従業員柏木を同行し、新たに作成された右レイアウト図面を持って土地係を訪れ、楠田に右図面を確認してもらった。

<3>ところが、同月二八日ころ、楠田から原告に対し、「駐車装置が設置してあれば、管理小屋は不要である。」という指導訂正の電話があった。

小山は、同月二九日、土地係を訪れ、楠田及び男性職員一名に対し、右電話の内容に間違いがないことを確認した。

原告代表者内藤義明、谷及び小山は、同年一〇月二五日、土地係を訪れ、対応した曽根及び小林武職員(以下「小林」という。)に対し、原告の計画内容に手落ちがない旨を確認した。

さらに、小山は、同月三一日、最終案としてのレイアウト図面を持参して土地係を訪れ、曽根に対し、その確認を受けた。

<4> ところが、同年一一月六日、楠田から原告に対し、「免除認定基準日である平成四年一月一日までに駐車装置が設置されていなければ免除認定が受けられない。」という指導変更の電話があった。

そこで、谷は、翌日である同月七日、土地係を訪れ、小林に対し、「今更(指導変更されても)困る。申告時期までに(駐車装置が)完成していれば良いと言ったではないか。」などと強く抗議した。しかし、同職員は、「確かにそのように言いました。申し訳ない。」と謝罪するだけであった。

(2) 信義則の法理は、租税法律関係においても適用になるところ、税務官庁が公的見解を表示したため、納税者がその表示を信頼し、これに基づき行動したにもかかわらず、後に右表示に反する課税処分がされたために納税者が経済的不利益を受けた場合で、かつ、納税者が右表示を信頼し、これに基づいて行動したことに責めに帰すべき事由がない場合には、この法理を適用して課税処分を違法なものとして取り消すべきである。但し、当該見解が税務官庁の公的見解といえるか否かは、これを表示した職員の地位・役職だけでなく、当該職員の組織上の位置付け・当該見解の性質やこれがされた態様などを考慮して総合的に判断すべきである。

(3) 土地係は、横浜市港北区内の納税者に対する特別土地保有税に関する説明・指導をする担当部署であり、当時、市民が特別土地保有税に関する公的指導を受け得る部署はほかになかった。だからこそ、前記パンフレットにも、各区役所の土地係の名が問い合わせ先として記載されていたのである。したがって、土地係の職員がした説明・指導は、納税者が信頼の対象とすべき横浜市の公的見解とみるべきである。

また、原告は、特別土地保有税を受ける目的で、継続的に、相当回数、土地係に赴き、その意向を確認しながら右免除要件である駐車装置の設置計画を進めてきたのであり、これは一般的・一過性の税務相談とは明らかに異なるというべきである。しかも、原告の役員や代表者は、レイアウト図面まで持参して訪問して指導を求めているのであるから、土地係の指導は、正式な照会に対する回答と認められる。

(4) また、特別土地保有税は、一般になじみの薄い税であり、課税に影響を与える取扱通達は、平成三年八月に発表され、その具体的解説は、同年一二月号の専門雑誌に初めて掲載されたほどであるから、税務の専門家でない原告が、その課税免除の要件等について独自に判断をすることは不可能であった。したがって、原告が右指導を信頼し、これに基づき行動したことについて責めに帰すべき事由はない。

(5) このように、土地係は、原告に対して、誤った指導をしたが、右指導内容は横浜市の公的見解としての性格を有する。また、土地係は、同年一一月六日に至って、従前の指導を変更し、初めて正確な指導をしたものの、原告は、従前の被告の指導を信じて行動し、これにより不測の損害を受けたもので、かつ右指導を信頼して行動したことについて責めに帰すべき事由がない。したがって、被告が原告に対し本件処分をすることは、信義則に反し違法である。

(二) 被告の主張

(1) 谷らが、土地係を数回訪れたことは認める。

谷らの相談を受けたのは、楠田及び下村修職員であり、曽根及び小林ではない。

なお、楠田は、平成三年八月下旬ころ、原告に対し、電話で、「基準日において(二段式駐車場の)建設に着手しているだけでは免除対象とならず、平成四年一月一日において駐車装置が存在しなければならない。」旨説明したことはある。

(2) 原告が、平成三年五月ころ、土地係に相談に来たとき、担当職員が、本件土地が特別土地保有税の納税義務の免除対象となるかについて、平成四年度は、税制改革の初年度となるから、基準日現在、駐車場の建築に着手し、かつ、申告日までにこれを駐車装置として使用していれば免除対象となる可能性もある旨話したことはある。

しかし、租税法律関係において信義則の法理が適用されるのは、税務官庁が、納税者に対し、公の見解を表示したことを要するところ、単なる担当職員の話は、右の公の見解の表示に当たらない。

そもそも、どのような場合に右保有税の免除がされるかは、原告自身の責任において判断すべき問題であり、仮に原告が土地係の担当職員の話を信じて、安易に土地利用計画を立てた等の事情が存したとしても、これをもって、被告に、本件処分を取り消すに足る信義則違反があったとはいえない。

2  駐車装置の設置について(恒久性の要件)

(一) 原告の主張

(1) 当該土地が特別土地保有税の納税義務の免除の対象となるか否かの認定は、申告納付すべき日の属する年の基準日(本件土地においては、平成四年一月一日)の現況によるが、右認定をするに当たっては、基準日現在の一時的な現況のみでなく、当該基準日を中心とする一定の期間における土地の利用状況を勘案して行なうべきである。したがって、基準日現在、既に建設に着手され、その後の工事の進行状況からみて恒久的な建物、施設等の用に供されることが確実であると認められる土地は、免除の対象となるというべきである(昭和五七年四月一日自治固第三一号、昭和五八年四月一日自治固第二二号通達第二の四及び五)。なお、被告がその主張の根拠とする「平成三年八月六日付け自治省税務局固定資産税課企画係長事務連絡の質疑応答Ⅳ」には、「今回の免除制度の縮減の対象である駐車場、資材置場等土地自体の利用を主たる目的とする特定施設の用に供する土地については、基準日において建設に着手しているだけでは免除の対象とはならず、検査済証を交付された建物等が存在することが必要である。」旨記載されているが、この記載は、検査済証を交付された建築物又は構築物(法施行令附則一六条の二の四第一項)を伴う土地の場合について述べているだけで、建設大臣認定の駐車装置を伴う土地について言及するものではない。

(2) 原告は、前記指導変更を受けた平成三年一一月六日以降、ただちに東京電力に対し、本件土地について、駐車装置を設置、使用するための電源引込工事の許可を申請し、工事業者は、許可が下りた同年一二月四日、工事に着工し、右工事は、同月六日ころ完成した。

また、原告は、右指導変更を受けた後、ただちに本件土地の舗装工事を発注したが、年末年始を控えていたため職人や器材の手配が間に合わず、結局、工事業者は、平成四年一月二四日ころ、右工事に着手し、右工事は、同年一月二七日ころ完成した。

さらに、原告は、平成三年一一月七日、建設大臣認定の駐車装置の生産を発注し、生産業者は、同年一二月中に生産に着手したが、年末年始を控えていたことや注文が殺到したことから生産が遅れ、駐車装置は、平成四年一月二七日ころ、本件土地上に設置された(以下「本件駐車装置」という。)。

(3) このように、本件土地については、本件基準日の時点で配線工事が完了し、また、生産工場において駐車装置の組立工事もされており、また、本件駐車装置は、平成四年一月二七日ころ本件土地上に設置されたのであるから、本件土地は、平成四年一月一日現在、その後の工事の進行状況からみて恒久的な建物、施設等の用に供されることが確実であったと認められる。

したがって、本件土地は、法六〇三条の二が規定する恒久性の要件を満たしているから、本件処分は違法であり、取り消されるべきである。

(二) 被告の主張

(1) 本件駐車装置が、本件基準日現在、本件土地に設置されていなかったことは認める。

(2) 特別土地保有税は、昭和四八年度の税制改正により創設されたものであるが、その後、地価の動向が沈静化したことなどから、昭和五三年度の税制改正において、法六〇三条の二が新設され、前記のような免除制度が設けられた。

ところで、右免除制度によれば、投機的取引により取得した土地が、青空駐車場や資材置場等に利用されている場合、これが恒久的な利用に供されるものといえるかの判断が困難であり、政策税制であるはずの右保有税が、本来の役割を果たさないとの指摘があった。そこで、平成三年度の税制改正において、法附則三一条の四の二が新設され、特に地価高騰が著しく、土地問題が深刻な三大都市圏の特定市について、投機的取引を抑制し、併せて土地の有効利用の促進を図ることが特に必要であるという趣旨から、右免除制度の特例が設けられたものである。

右免除制度の特例が設けられた趣旨からすれば、特定施設の用に供される土地については、基準日に特定施設の建設に着手しているだけでは免除の対象とならず、建設大臣認定の駐車装置が、基準日現在、土地上に存在することが必要と解され、このことは、「平成三年八月六日付け自治省税務局固定資産税課企画係長事務連絡の質疑応答Ⅳ」の記載からも明らかである。

四  争点に対する判断

1  信義則違反について

(一) 信義則の法理は、単なる私法上の原理にとどまらず、すべての法律関係を支配する一般原理として、租税法律関係においても適用になるが、租税法律関係においては、法律による行政の原理、特に租税法律主義の原則が貫かれるべきであるから、この法理の適用に慎重でなければならない。したがって、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠性にしても、なお当該課税処分を免れさせて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に初めてこの法理の適用を考えるべきである。また、右特別の事情の有無の判断に当たっては、少なくとも税務官庁が、納税者に対し、その信頼の対象となる公的見解を表示するなどしたことにより、納税者がその表示を信頼し、その信頼に基づいて行動したところ、後に右表示に反する課税処分がされ、納税者が経済的不利益を受けることになったものであるかどうか、また、納税者が右表示を信頼し、その信頼に基づいて行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないかどうかという点の考慮が不可欠である。

そこで、本件において、右特別の事情があるか否かについて検討する。

(二) 〔証拠略〕によれば、以下の事実が認められる。

(1) 原告は、不動産貸付、不動産管理及び駐車場経営等を業とする株式会社である。

(2) 原告又は原告の関連会社は、平成三年五月一〇日ころ、横浜市港北区役所から「特別土地保有税改正のお知らせ」と題する書面(甲六号証)の送付を受けた。右書面には、平成三年度の地方税法の一部改正により、一〇〇〇平方メートル以上が課税の対象となり、青空駐車場、資材置場等について免除基準が改正された等の記載があったが、免除の認定の基準日については何ら記載されておらず、「ご不明な点につきましては、次の特別土地保有税担当までお問い合わせ下さい。横浜市港北区役所固定資産税課土地係」という記載があった。

原告は、右書面をみて、従来納税義務の免除対象とされていた青空駐車場や資材置場等が原則として課税対象となり得ることを知った。そこで、原告の谷常務と従業員小山は、同月一三日、本件土地に対する特別土地保有税の納税義務の免除について相談するため、港北区役所の土地係を訪れた。

なお、谷らが土地係を訪れた平成三年五月一三日の時点では、日和興業株式会社が別紙物件目録二及び三記載の土地を所有していたが、原告はこれを買い受ける予定となっており、同年六月二七日、売買によりこれを取得した。

(3) ところで、港北区役所固定資産税課土地係において、特別土地保有税の事務を担当していたのは、山岸二郎土地係長(以下「山岸係長」という。)以下、曽根、楠田、小林のほか、下村修へ田雑由紀乃の五名の平職員であった。(以下、この五名を「担当職員」ということもある。)

当時、担当職員らは、平成四年度は新税制の初年度であるから、課税に関する措置が緩和され、建設大臣認定の駐車装置が基準日に完成していなくても、申告時期までに完成していれば、特別土地保有税(保有分)の納税義務が免除されるかもしれない、などと話し合っており、曽根は、土地係を訪れた谷らに対し、右同様の趣旨を述べた。

(4) 小山は、同年七月二六日、駐車装置設置のレイアウト図面を持って、土地係に赴いた。

曽根及び楠田は、右レイアウト図面をみて、小山に対し、「駐車装置のほかに、管理人小屋も必要である。」などと説明した。

そこで、原告は、右説明に従い、右レイアウト図面に管理小屋を加えた図面を新たに作成し、小山は、一級建築士の資格を持つ原告従業員柏木を同行し、同月三一日及び同年八月六日、新たに作成された本件土地のレイアウト図面を持って土地係を訪れた。

(5) 横浜市は、同月一四日、平成三年度の税制改正に伴う準備事務を議題とする特別土地保有税担当係長及び担当者会議を開催した。右担当者会議には、横浜市全区の特別土地保有税の各担当者が出席し、港北区役所からは、山岸係長ら三名の担当職員が出席した。

右担当者会議では、平成三年八月六日付け自治省税務局固定資産税課企画係長事務連絡などの資料が配布され、免除対象の縮減に伴う課税対象の判定基準などの説明がされた。

これを受け、土地係は、同月二〇日ころ、係内会議を開催し、その席で、右担当者会議の報告がされ、また、当該土地が特別土地保有税の納税義務の免除対象となるか否かは、基準日の現況で判断することが確認された。

そこで、担当職員らは、それまでに、課税に関する措置が緩和され、駐車装置が申告時期までに完成していれば、特別土地保有税(保有分)の納税義務が免除されるかもしれないなどとあいまいな説明をしてきた納税者に対し、個別に電話等で連絡することとした。

しかし、楠田が、同月下旬ころ、原告に対し、電話で右の連絡をしたことを認める的確な証拠はない。

(6) 小山は、同月二九日、土地係を訪れ、また、原告代表者内藤義明及び谷は、同年一〇月二五日、土地係を訪れた。

さらに、小山は、同月三一日、本件土地のレイアウト図面を持参して、同土地係を訪れた。

(7) 楠田は、同年一一月六日、原告に電話をし、小山に対し、「特別土地保有税の新税制への移行期である平成四年度は、申告時期の平成四年五月までに建設大臣認定の駐車装置の工事が完了していれば、納税義務は免除されるという期待を持たせる指導をしてきたが、自治省固定資産税課課長からの通達で、平成四年一月一日の現況で判断することを指示された。また、免除を受けるためには、舗装、区画線引建設大臣認定の駐車装置の設置に加えて、検査済証が取れた管理事務所が必要であると指導したが、管理事務所は不要である。」旨述べた。

(8) 谷は、平成三年一一月七日、土地係を訪れ、担当職員に対し、「今更(指導変更されても)困る。申告時期までに(駐車場装置が)完成していれば良いと言ったではないか。」などと抗議したところ、担当職員は、「確かにそのように言いました。申し訳ない。」などと述べた。

以上の事実が認められ、この認定に反する証人曽根光子、同楠田晃一の各供述は、あいまいな点が多く、〔証拠略〕の記載に照らし、たやすく採用することができない。

なお、証人谷煕、同小山眞繁の、担当職員が本件基準日について、当初から断定的な説明をしたとの供述部分は、右認定の事実経過に照らし、にわかに採用することができない。

(三) 右認定の事実によれば、土地係の担当職員は、平成三年五月一三日、原告従業員に対し、建設大臣認定の駐車装置が、申告時期の平成四年五月末日までに完成していれば、本件土地に係る特別土地保有税の納税義務が免除される可能性がある旨の見解を述べたので、原告従業員小山らは、これを前提に、その後、相談のため土地係を訪れたが、その間、前述のような会議が開催され、特別土地保有税の免除の要件や基準日について確認されたにもかかわらず、担当職員は前述のような応待を続け、平成三年一一月六日に至り、初めて原告に対し、訂正の電話をしたということになるから、担当職員の原告に対する対応が、極めて不適切であったことは否めない。

しかし、前述認定の事実によれば、原告従業員に対応した担当職員は、いずれも役職はなく、また、担当職員の言動は、原告の照会に対する正式な回答ともいい難く、単に口頭でされたに過ぎないのであるから、担当職員の見解の表示をもって、前述の税務官庁がした納税者の信頼の対象となる公的見解の表示とは認められない。確かに、原告が主張するように、土地係が港北区内の納税者に対する特別土地保有税に関する説明・指導をする担当部署であること、パンフレットに問い合わせ先として各区役所の固定資産税課土地係の名が記載されていたこと、原告が、特別土地保有税の免除を目的に、継続的に、相当回数、土地係に赴き、その意向を確認し、指導を受けながら駐車装置の設置計画を進めてきたことは事実であり、このような原告の期待が裏切られた結果となったことは、遺憾というほかないが、右のような事実は、前記判断を左右するには至らないと解される(前記認定の事実によれば、担当職員の本件基準日についての説明が断定的なものであったとまではいえないし、原告に対する右の点の訂正の伝達も、遅れたとはいえ同年一一月六日にされたのであり、後記認定のとおり、本件駐車装置の設置が右基準日に間に合わなかったのは、右のような装置の注文がメーカーに殺到したという特殊な事情によるものといわざるを得ない。)。

(四) したがって、本件においては、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠性にしてもなお、本件処分を免れさせて、原告の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存するとまでは認められないから、信義則の法理により、本件処分を取り消すことはできない。

2  駐車装置の設置について(恒久性の要件)

(一) 特別土地保有税は、土地保有に伴う費用の増大を通じて投機的な土地取引を抑制し、併せて投機的に保有されている土地の放出を促すことを目的として設けられたものであるが、法六〇三条の二は、右のような課税目的に照らし、既に社会通念上相当程度の水準に達した利用がされ、最終的な需要に供されている土地については税負担を求めるべきでないという趣旨に鑑み、前記のような納税義務の免除を規定したものである。

このような趣旨から、同条一項二号は、「特定施設で、その整備状況、利用状況等が恒久的な利用に供される特定施設に係る基準として政令で定める基準に適合するものの用に供する土地」を免除対象としている。そして、右「恒久的な利用に供される特定施設に係る基準」につき、法施行令五四条の四七第二項は、「その整備状況が同一又は類似の用途に供される施設について通常必要とされる整備の水準と同程度の水準に達しているものであること」、「その利用が相当の期間にわたると認められること」、「その効用を維持するため通常必要とされる管理が行われると認められること」と定めているところ、このような法六〇三条の二、法施行令五四条の四七の趣旨及び同条二項が、特定施設の整備、利用、管理の三状況を問題としていることに照らすと、右の基準に該当するか否かの判断は、法六〇三条の二第七項及び五八六条四項の規定するとおり、申告納付すべき日の属する年の基準日の現況として、当該土地上に右の基準に適合する特定施設が実際に存在するか否かによって定まるべきと解するのが相当である。

もっとも、法六〇三条の二第一項二号のうち、建物又は構築物の敷地の用に供する土地、建物又は構築物を主たる構成要素とする特定施設の用に供する土地については、基準日に建物等が完成していることは必ずしも必要ではなく、少なくとも右基準に適合する建物等の設置が、外形的・客観的にみて、確実と認められる程度に建築途上にあれば足り、右認定をするに当たっては、基準日現在の一時的な現況のみでなく、基準日を中心とする一定の期間における土地の利用状況をも勘案してこれを行うべきである。

これに対し、前記争いのない事実2のとおり、平成三年度の税制改正により、三大都市圏の特定市においては、土地自体の利用を主たる目的とする特定施設について、新たに恒久的に利用しているか否かの判断を外形的、客観的に行うための基準を設けることとしたものであり、そのため、法六〇三条の二第一項二号のうち、土地自体の利用を主たる目的とする特定施設のうち建物又は構築物を伴わないものとして政令で定めるものの用に供する土地(青空駐車場等)が除外され、但し、<1>建築基準法七条三項に規定する検査済証を交付された建物又は構築物、<2>自動車車庫の用に供する構築物のうち建設大臣認定の駐車装置を用いて設計されたもの及びこれらと一体的に利用されている土地により構成されているものだけが例外として免除の対象とされた。

この結果、右<1>については、基準日において建築途上にあるだけでは足りず、「平成三年八月六日付け自治省税務局固定資産税課企画係長事務連絡の質疑応答Ⅳ」(乙三号証)にもあるように、「今回の免除制度の縮減の対象である駐車場、資材置場等土地自体の利用を主たる目的とする特定施設の用に供する土地については、基準日において、建設に着手しているだけでは免除の対象とはならず、検査済証を交付された建物等が存在することが必要である。」とされることになった。

そして、右<2>については、前記基準日の現況に関する解釈、右改正の趣旨及び右<1>についての基準日の現況についての考えに照らすと、基準日において、駐車場として整備され、建設大臣認定の駐車装置が土地上に既に設置されているか又はこれとほぼ同視し得る程度の状態にあることが必要と解するべきである。

そこで、本件土地が、「特定施設で、その整備状況、利用状況等が恒久的な利用に供される特定施設に係る基準として政令で定める基準に適合するものの用に供する土地」すなわち、右の恒久性の要件を充足する特定施設の用に供する土地に該当するかに関して、本件基準日である平成四年一月一日現在における本件土地の現況を検討する。

(二) 〔証拠略〕によれば、以下の事実が認められる。

(1) 原告は、平成三年一一月六日ころ、扶桑電機株式会社に対し、本件土地上に本件駐車装置を設置するため、電源引込工事及び配線工事を発注し、右扶桑電機は、同年一二月四日から同月六日ころまでの間及び平成四年一月二九日ころから同月三一日ころまでの間、右各工事を行った。

(2) また、原告は、平成三年一一月六日ころ、株式会社小笠原組対し、本件土地のアスファルト舗装工事を発注したが、右小笠原組では、年末年始を控えていたために、職人や器材の手配が間に合わず、平成四年一月二五日ころ、右工事に着手し、右工事は、同月二七日ころ完成した。

(3) さらに、原告は、平成三年一一月七日、三和金属工業株式会社に対し、本件駐車装置(製品名パーキングダブルレクトタイプ)三三基の生産を発注した。

本件駐車装置は、各部分を工場で生産・完成したうえ、これを当該土地にねじとボルトで据え付けるという据付型の駐車装置であり、据付工事は、一基当たり約三時間で完了できる。

右三和金属工業は、同年一二月中に右生産に着手したが、年末年始を控えていたことや同種の駐車装置の注文が殺到したことから、生産が追い付かず、平成四年一月二八日ころから同月二九日ころまでの間に、本件土地に、本件駐車装置を据え付けた。

(4) 最後に同年二月六日、本件土地に消火設備の設置工事が行われた。

(三) 以上認定の事実によれば、本件基準日である平成四年一月一日現在における本件土地の現況は、本件駐車装置が実際に存在していないことはもちろん、未だ本件駐車装置の据付工事の着手もされておらず、単に電源引込工事及び配線工事がされていたに過ぎない。

そうすると、原告がアスファルト舗装工事及び本件駐車装置を発注していたこと、発注を受けた生産工場が本件駐車装置の生産に着手していたことを勘案したとしても、本件土地が駐車場として整備され、建設大臣認定の駐車装置が土地上に既に設置されているか又はこれとほぼ同視し得る程度の状態にあるとは認められないから、本件基準日において、本件土地が、恒久性の要件を充足する特定施設の用に供する土地に該当するとはいえない。

3  以上の次第で、原告の請求はいずれも理由がなく、本件処分は、関係法規上適法にされたものと認められる。

五  よって、原告の請求は、理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 浅野正樹 裁判官 秋武憲一 小河原寧)

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